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    「それは、小規模な演習だからして居らん」

    「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」

    「はあ、見て参ります」

    あまり立てつゞけに挨拶したので、疲くたびれ、いくらか器械的にだが形だけは実直に頭を下げた直造は、稍かすんだ眼で今迎へたばかりの客を見た。

    「さうです。農林学校の先生だとかをしていられると聞きましたが」

    家督を継いだ文太郎が間もなく酒造業をやめた時に、直造は少からず不満だつた。文太郎は種々の理由から説得した。が、最大の理由は法学士だつた文太郎が帳付よりも地方政治に興味を持つていたことにあるらしい。果して、文太郎の濫費のために一時は不動産の大半が銀行担保に入つたことがある。直造は不機嫌だつた。しかし、欧洲大戦が始つて以来の好景気が鍵屋の財政を持ち直しはじめていた。

    「大きに。ありがたうござんす。よろしう頼んます」

    見たことのない顔だつた。患者なら玄関から来る筈だ。

    「なに、ろくでもない用事で帰つたもんですから、どこへも失礼していたんです」

    「つい今日まで挨拶にも行かずじまひになつてね、どうも済まなかつた」

    「ありがたう。――あ、大きいね」

    根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。

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